2018年10月18日、豊郷小学校に行きました。この日は朝から快晴でした。平日でしたが、開館時間の9時を過ぎると観光客の団体が入ってきて、旧校舎群のあちこちでめいめいに見学を楽しんでいました。
この二、三年ぐらいから、滋賀県に点在する文化遺産を一本の線で繋いで観光コースの主動線に据えようという試みがあり、滋賀県の昔からの観光メインルートとして親しまれている「琵琶湖一周」の概念と組み合わせての観光需要掘り起こしが各方面で進められています。
その延長上に、湖東地域の旧街道筋に点在する古集落や古建築を巡礼するコースが幾つか設定され、特に「近江商人の文化遺産」と銘打ったそれは、近江八幡、五個荘から彦根、長浜へと回るなかで、近江商人ゆかりの史跡や建物を見てゆく、という内容にまとめられています。そのほぼ中間の重要な見学および休憩ポイントが、ここ豊郷小学校旧校舎群であることは周知の通りです。
そして、ツアー見学者の大多数が年配の方であるため、古き良き懐かしの昭和、大正の頃を再び味わえる空間である豊郷小学校旧校舎群が人気を集めているのは当然の事と言えます。加えて、それより若い世代にも、自身の小学校時代を振り返る場として注目されつつあります。
この流れにより、「けいおん」の聖地、としての意識は、既に観光客全体のなかに占める割合が小さくなっており、最近は「けいおん」を知らない見学者の比率が上がってきています。仮に100人の見学者が居たとして、けいおんファンや巡礼者はその約3割以下、という状況になっているようです。
したがって、豊郷小学校旧校舎群を見学する過程において、初めて「けいおん」聖地であったことを知る、という観光客が過半数を占めるわけであり、その傾向は年々強まると予想されます。さらに隣の彦根に及んでいるインバウンドの波が、いずれは世界的にも評価の高いヴォーリズ建築としての豊郷小学校旧校舎群にもやってくることが想定されています。いや、もう来ているのかもしれません。時々、外国人観光客の姿を見かけるようになっていますので。
この趨勢に対応出来るように酬徳記念館の「けいおん」関連展示コーナーを整理して見やすくし、内容を再編して一般観光客も楽しめるような状況を目指す、という方向がいずれは必然たるものとなるのは、端的に言えば時間の問題であったわけです。
つまり、けいおんファンによる、けいおんファンのための「けいおん」関連展示コーナー、という状態からは早急に脱して新たな観光ツーリズムの波に合わせた、普遍的なアニメ展示コーナーへの置換が必要になってきています。
なので、ほんの思いつきで始まった9月15日の長島さんと私の整理清掃修復作業は、最初はただのボランティア行動に過ぎなかったのですが、たまたま前述の情勢に適合する方向性をも内包していたため、その継続が次第に重要な有意義性を帯びてくる成り行きとなりました。
そのことが直感的に分かったのが9月23日の作業時においてであり、それからは当局やKさん達との相談も内容的に真剣なものとなったのは言うまでもありませんでした。それに呼応するように、役場担当課の職員の巡回も増えている、ということでした。
全体的に見ますと、色んな意味で良い方向に向かっているのは、と思います。更に努力しなきゃいけないな、と襟を正して事にあたる気構えが、自然に沸いてまいります。
さて、今回で数えて5回目となる作業に臨むべく、酬徳記念館に入って観光案内所の担当者、ずっと活動を共にしている地元有志のKさんと挨拶をかわし、二、三の連絡と打ち合わせを行いました。開館時間の9時きっかりにスタートしたのですが、こういう作業はいくら時間があっても足りません。
まずは、前回10月4日の続きとして、二階の物置の非展示品在庫の分類と整理からとりかかりました。事前にKさんと協議して、大体の段取りを決めてありましたので、Kさんも私もすぐにそれぞれの分担作業に入りました。
上図は、ダブリ分の在庫を整理して今後の扱いに備えて箱詰めしているKさんです。左側に、上に青ジャケットを乗せた箱積みが幾つかのフィギュアと共に写っていますが、これらは長島さんと私の荷物です。これまでに展示に組み込んだ寄託提供品の空パッケージを保管しているのが大多数に及びます。
さて、今回は、展示品のうちのアゾンのドール群を、ドールに詳しい長島さんに修理して貰うべく、長島さんの所へ宅配便で発送する作業から始めました。
上図のように、琴吹紬を除くあとの4体は既にそれぞれのパッケージに納め終わっており、不足のパーツがかなりあるらしいと分かりましたが、物置のゴミを探してもそれらしき物が見つからないため、現状の状態で発送することにしました。長島さんとも連絡を取って、不足のパーツや修理要の範囲を知らせておきました。
あらかじめ、ネットにてヤマト宅急便の集荷を依頼しておいたので、その時刻までに荷物をまとめました。
発送する荷物を造り終えて観光案内所に預けた後、一階左棚のミニフィギュア群展示の全体像を具体化すべく、不足補充品および新規追加品の候補の絞り込みを行いました。
今回、二ヶ所に分散していた、グッドスマイルカンパニーのねんどろいどぷちの「だいいっき」シリーズ11体を一列にまとめて並べ直しました。このシリーズは全12体から成り、現時点で山中さわ子が欠けていました。
実は、その山中さわ子を9月15日の作業に際して長島さんが家から持参したらしいのですが、目的の所へおさまることもなく、そのまま行方不明となっています。いまだに館内のどこからも発見されていませんので、謎の一つになっています。とりあえず、新たに確保して補完するしか無いようです。
バンプレストのきゅんキャラシリーズは、既に全てのセットが展示されていましたが、再構成に際して全てをチェックしたところ、上図上段に並ぶ「不思議の国deティータイム」シリーズのうちの田井中律、「パーティー時間」シリーズのサンタ平沢唯ローソンVer.の2体がありませんでした。それで、今後はこの2体を補完することになりました。
上図は、バンダイの「R-style」シリーズですが、5体のうちの3体のみです。残り2体をKさんが探してくれることになりました。残り2体とは、田井中律、琴吹紬ですが、もともと市場流通量が少なかったとされて中古品市場にもあまり出回っていません。なので、確保出来るかどうかは分かりません。
上図の空きスペースには、現在全く展示品が無いちびきゅんキャラの「けいおん」シリーズ第3弾の4体が入る予定ですが、寄託提供が無かったため、これもKさんが探してみよう、ということになりました。
ちびきゅんキャラの「けいおん」シリーズ第3弾の前に発売されていた第1弾の4体は、このとおり全て揃っています。けいおんブームが爆発的に始まった頃にプライズ品として発売され、当時の女子中高生たちがゲームセンターに殺到する現象をもたらしたエポックメイキング的な品とされています。
当時は売れ過ぎて追加生産が数度に及んだそうです。以後のパンブレストの多きにわたるけいおんフィギュアの発売の先駆けとなったセットですので、資料的価値も高いと思います。
第2弾もこのとおり4体が揃っていますから、第3弾だけが全く無いのは、ある意味おかしな事です。寄贈するファンが居なかったのでしょう。
ちなみにこの第2弾セットも爆発的な売れ行きを示し、ゲームキャッチャーが数分で空になった所が続出したと聞きます。全盛期のすさまじいミニフィギュアブームの有様がしのばれます。
ここの展示における一つのポイントは、きゅんキャラシリーズの最後を飾った「5thあにばーさりー」シリーズの5体が全て揃っていることです。一番くじの実施店舗が半減した時期に発売されているため、流通量が他のセットに比べて少ないです。
現在、中古品市場での流通量が地域によってバラついているので、地域によっては入手困難であるとされています。近畿地方ではなぜか兵庫県下に在庫が偏っていたらしく、京都府や大阪府のショップでは全く入手出来なかった、という話を聞いたことがあります。
これまた入手困難とされている、ちびきゅんキャラ「映画けいおん」シリーズ10体のうちの5体、グレイスタイルシリーズが全て揃っています。一番くじセール実施時期において最もコンプリートが難しかったため、あとの5体のロンドン休憩シリーズまでを揃えた人は僅かであった、とアニメ雑誌か何かの記事で読んだ記憶があります。
前述のグレイスタイルシリーズとセットになっていて、最もコンプリートが難しかった、あとの5体のロンドン休憩シリーズは、御覧のように3体しかありません。琴吹紬と中野梓がありませんので、これも今後探して補完することに決まりました。
ですが、この5体セットには、別バージョンの平沢唯と中野梓の2体が追加で存在しており、一番くじにおいては別の賞品であったため、7体を揃えるのは至難の業でした。現在、その一方の平沢唯が物置に仕舞われていることが判明しているので、あとは中野梓別バージョンをなんとかして確保する、という方針がまとまりました。
これらのシリーズ群は、揃ってワンセットとしてまとまる事で、初めて本来の造型表現世界を示します。それだけに、全て展示することで資料的価値も発生します。7体揃うのがどれだけ大変な事であったかを知っている方ならば、コンプリート品の資料的価値が飛躍的に上がることはよく存じているでしょう。
ブーム全盛期において、女子高校生を中心とする、「平沢唯たちの同級生」世代のファンが最も評価したミニフィギュアのシリーズが、上図のねんどろいどぷち3体セットです。TBSとローソンの限定コラボ品として全国で展開販売され、その可愛らしい出来が全国の女子高校生たちを虜にしたといいます。交流サークルのモケジョさん7人の全員が、この3体セットを持っていることからも、人気の程がうかがえます。
このように、いずれのミニフィギュアも、けいおんブームを支えた重要なアイテムです。10周年を迎えた現在、その存在感には歴史的価値も付加され、さらには限定品であることで貴重品としての側面も評価されてゆくことになるでしょう。
一階の一つの棚にミニフィギュアを集約するのは、いわゆる博物館展示手法の一つである「小さな者たちの大きな集まり」を応用した試みです。「けいおん」というアニメは、他のアニメに比べるとミニフィギュアの製品化数がすばぬけており、それも複数のメーカーが競うようにして発売し、製品の精度も向上させていたった、という流れがあります。
そのプロセスから読み取れる事象のいずれも、「けいおん」というアニメの人気ぶり、時代への適合性をよく物語っています。同時に、初期の製品から、末期の製品までのそれぞれを検証すれば、明らかな変遷、進化向上の跡が浮き彫りになります。
その過程を、一言で要約するならば、「歴史」となるでしょう。つまり、ここの棚に集約されるミニフィギュア群は、そのまま「けいおん」というアニメ作品の立体造形の歴史であるわけです。
1体だけなら、ただのおもちゃですが、全部集めて並べたら、一種の歴史的資料に昇華させることが出来ます。一連の作業で試みている整理と再構成の最終目標が、「歴史」の可視化であるならば、やりがいもあるというものです。 (続く)