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知波単学園チーム特二式内火艇カミに関する裏話 その3

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 プラッツ発の公式キットの中身は、現在において特二式内火艇カミをキット化したものとしては唯一であるドラゴン製品です。現存する実車への徹底的なリサーチに基づいて製品化されたようで、Sさんも「よう精密に出来とりますね。小さな部品は幾つか無くなってますけれども、この大きさでこれだけ再現しておるのは、大したもんですねぇ・・・」と感心しておられました。

 ですが、Sさんは艇内も再現されていると思ったらしく、キットを開封して内部のパーツ類が一部しかないのを説明すると、少しガッカリした表情を示されました。それを見てなんだか気の毒になってしまい、「艇内も作ろうと思えば作れます。でも資料とか写真がありませんので、どうやって作ればいいか分かりませんけど・・・」と続けたところ、「ああ、それなら大丈夫、私がよう知っとります。今でも隅々まで覚えております」と応じられました。
 それが契機となってカミのインテリアも製作する事になったわけですが、私が分からなかったのは艇内の詳細だけではありませんでした。外回りの幾つかの部品に関しても、何であるのか、どういう機能を持った部品であるのかが分かりませんでした。

 例えば、上図のキットの車輌本体側面の前後についている丸いハンコのような突起物がそうでした。ドイツの戦車でも車体や砲塔の各所に似たような雰囲気で吊り下げ用のフック等が付いていますので、最初はそれに近いものかと考えました。
 しかし、Sさんは笑いながら教えてくれました。

「吊り下げ用のものでは無いです。これは輸送船で運ぶ時に車体をロープで係止固定するためのものです。・・・吊り下げるというのは、うーん・・・・、私らはそういう使い方はしたことないですな・・・」

 

 上画像の引用元(https://www.flickr.com/photos/150334035@N07/35303415484)

 説明しながらSさんがスクラップブックから取り出してくれた切り抜きの写真が上図です。第101号型輸送艦での輸送状況を撮影したもので、カミの係止状況がよく分かります。履帯の前後にも白い三角形の車留めが見えます。

「・・・こういうふうにロープと車留めでしっかり固定しておくわけですよ。船ってのは揺れますからねえ、縦にも横にも。ピッチングとローリングですな、これに耐えうるように係止しないといけないわけですよ。そうしておかないと、大波で船が大きく揺れた時にね、車輌がコロッと海に落ちちゃう場合がありましてね・・・」
「カミは、潜水艦にも積めるように設計されてますので、これも本来は潜水艦に搭載する場合を想定しての係止法なんだろうと思います。我々の時は民間の貨物船を海軍が徴用したのに積み込んでまして、クレーンで吊り上げて上甲板に並べとったんですが、その時はワイヤーを車体の前後の下に巻いて吊り上げてましたね・・・」
「我々がパラオまで乗った輸送船は甲板が広かったですからね、デリックの間に入れてロープをなるべく四方に張るようにして係止しましたね・・・。こっちの写真(上図)の輸送艦は海軍が作った専門の艦艇なんですけれども、我々がパラオへ行った時はまだ制式化されてなかった筈です。だいぶ後になってから出来て、主に比島方面の作戦に使われたみたいですね・・・」

 

 ついでに、フロートの前端や側面についている小部品についても教えていただきました。

「ああ、これですよ、こっちが吊り下げる時に使うリングですよ。舳先についてる四角のは、停泊時にアンカーチェーンを巻く時にも使ったんです。これと同じのが艇尾にもあります。左右についてるのも吊り下げ用のリングですが、これは、穴が開いてないな・・・」

 この説明によって、フロート左右の突起が吊り下げ用リングの基部であると分かりました。そしてキットのパーツではリング部分が省略されていることも判明しました。

 

 上画像の引用元(https://www.awm.gov.au/collection/C63349)

 Sさんがスクラップブックから取り出してくれた切り抜きの写真です。1942年10月にオーストラリアのセントルシアにて撮影された、捕獲車輌です。フロート左右の突起の上端がリング状になっているのが分かります。ここにワイヤーやロープを通してフロートを吊り上げたり、引っ張ったりして移動させたのだそうです。分かりやすい資料画像です。

「これは浮舟が一個なんでね、いわゆる試作型ですね。豪軍に捕獲されてますから、割と早い時期にニューギニア方面に送られたもののようですな・・・」

 Sさんによれば、いま私たちがカミの前期型と呼んでいる前部フロート一体型は、海軍では試作型と呼んでいたそうです。実用試験の結果が良くなかったために前部フロートを左右分割式に変更して、それを正式に採用したということなので、いま後期型と私たちが呼んでいるタイプが、海軍の制式採用型にあたるわけです。
 ですが、試作型のほうも、すぐに戦地へ送られていたことが上図の写真で分かります。撮影日時が昭和17年10月なので、カミが制式採用されて実戦配備され出した頃の、初期の生産車輌が早くもどこかの戦場で連合軍の手に落ちたのでしょう。

 

 上画像の引用元(https://www.awm.gov.au/collection/C63348)

 こちらは後部フロートを引っ張り出した際の写真です。艇尾のアンカーチェーン用の方形リングにもロープが通されているのが分かります。舵に繋がるワイヤーもよく見えます。

「・・・こっちの後の浮舟はね、車内でハンドル回して繋止鉤を引っ込めますと、ズルーと滑ってこういう形でストンと立ち上がるんです。舵が二つついてる所に最も重量がかかってますからね。それでロープをこういうふうに結んで引っ張るわけですが、これちゃんと帝国海軍の繋ぎ方になってるんですね・・・。浮舟にロープ結ぶのは、輸送船に乗せる時もやります。浮舟は別々にして運ぶので、これもロープできちんと係止しておくわけです・・・。たぶん、輸送状態のままで接収されたんと違いますかね・・・。そうでないなら、接収されたときに乗員も捕虜になったかして、向こうにロープの結びつけ方とかを教えたか、自身が結んで繋いでみせたか、でしょうな・・・」

 Sさんが呉でカミの特殊訓練を受けた際にも、同じ結び方、繋ぎ方を教わったのだそうです。浮舟つまりフロートの切り離し訓練も行ったそうですが、重いものなので、取り付けるほうはトラックにつけた起重機が使われ、上図のように結ばれたロープで吊り上げて行われたそうです。

 ちなみに、パラオに行ってからはSさんの艇も含めた5小隊が内火艇として海上で作戦行動したため、フロートを切り離す機会は無かったそうです。それどころか、大破した工作艦「明石」からの物資荷揚げを手伝った際に、あちらの造船将校の一人がカミにいたく関心を寄せ、小修理などもやってくれたそうです。その際にフロートも固定したのだそうです。

「・・・パラオに来て三日目でしたか、輸送の作業中に小隊の数隻に故障が続発しましてね、2隻は浮舟がずれちゃってましたね。ろくにチェックもせずに工場から出してるせいか、車体の横とかに隙間もあるんですよ。小隊長の艇は発動機が時々息をついたりする。「明石」から大量の工具類の箱を下ろして筏に積んで、曳航するという時に発動機が停まってしまう。小隊長は頭を抱えてましたね・・・」
「・・・・我々の艇もね、前に隙間があってね・・・、航行の度にチョロチョロ海水が艇内に入ってくるわけですよ・・・。だから浸水がずっとあって、ポンプで一応は汲み出してたんですが、どうにも心もとない。他の艇も似たり寄ったりで、4隻ぐらいに何かしら不具合があった。それを見かねたのか、「明石」の工作部の修理艤装担当の将校だったと思いますが、責任者とおぼしき方が工員を三人貸してくれましてね、我々のカミも含めて色々直してくれたのです。機材を陸揚げした作業へのお礼の意味もあったんでしょうなあ・・・」

 このときの修理で殆どの艇の前後のフロートも繋いで固定し、隙間も塞いだそうですが、同時に不要だからと履帯と車輪も外したのだそうです。2小隊6隻のうちの4隻がこの修理を受けたそうで、Sさんの艇も同様でした。
 重い履帯と車輪を撤去したおかげで、艇が軽くなり、航行性能も向上したそうです。喫水が浅くなり、舵の効きが良くなり、速力も2ノットほど上がったそうです。  (続く)

 


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