
豊郷小学校に滞在したのは二時間ぐらいでした。その後は中山道沿いに「玉屋」まで行くことになりました。途中の上図の石標に目を留めて立ち止まったミカさんでした。

「豊郷は中山道の宿場町の間の「立場」だった所なんですねー」
「そのようですな。後には拡大して「間の宿」も成立していますが、今でいう休憩地点ですから、街が大きくなるまでには至っていなかったようですな。中山道も直線ルートですし」
「中山道って、もともと直線じゃないんですか?」
「そんなことはない。地形によって曲がったりもしてますよ。あと宿場町に着けば道が折れ曲がっている場合が多い。中世戦国期に道をずらせて防御しやすくしていた名残もあるでしょうな」
「それでは、もし豊郷に宿場町があったら、中山道はこんな真っ直ぐには通らなかったということですか」
「そうですな。真っ直ぐにならずに屈折してつけられた可能性が高い」
「どうしてですか?」
「江戸期までの日本の街と道路の形成は、まず宅地や街区を先に作って、その後で道路を整備するパターンが一般的だったんですよ。現在の都市計画ではまず道路から通しますから、まっすぐな道が出来やすい」
「それ、なんとなく分かります。古い町ほど道が曲がりくねっていたりしていますよね」

「玉屋」に着きました。ちょっと休憩して軽く何か食べていきましょう、となりました。

店先の平沢憂の飛び出し看板もリニューアルされており、上図のように中学生時代の制服姿にデザインされていました。

反対側は、桜高の制服姿になっていました。

今回の誕生イベントの案内ポスターも貼ってありました。それをしばらく見て考え込んでいたミカさんでしたが、やがてポンと手をたたいて言いました。
「教授、やっぱり、けいおんの聖地が豊郷だっていうのを公式は言ってないんですね」
「そのようですな。どんな事情によるのかは分からんが、少なくとも京都アニメーションがロケ地を一切公言しなかったことは、その後の人気の発展に相当な効果を添えていると思いますな」
「そう、そうなんですよね。それって、やっぱり凄い事ですよね」
「確かに。京都の数多くのロケ地も、見りゃ分かるぞ、という場所ばかりだし、金閣寺や南禅寺水路閣、北野天満宮みたいに超有名な名所もある。公言する必要も無かったかもしれないが、あえて言わないことによって、ファンの自由自在な発想と行動を最大限にまで促した可能性がある」
「そうなんですよね。例えばガルパンだと、バンダイが大洗がロケ地だって言ってて、大洗のブームにも積極的に関与してて、何だかんだでバンダイの名前が出てくるんですよね。でもけいおんでは、全ての聖地が全部ファンの探索で特定されて、ファンの巡礼だけで盛り上がって確定してるんですよね。豊郷にも公式は一切かかわっていないんですよね。だから豊郷でのブームは、役場もファンも気兼ねなく展開してやれたというし、今日のようなイベントも、全部ファンや支援者だけでやってるわけなんですよね。だからここのポスターも、みんなみんなファンの手作り品で、公式のものは一枚も無い。公式抜きでよく今まで続いて来れたなあ、って思いますよね」
ミカさんの言葉通り、豊郷での「けいおん」ブームは全てファンと地元が盛り上げてきたものであり、それが十年になろうとしているのだから、特筆すべき現象であります。
ガルパン大洗の場合は何をやるにしてもいちいちバンダイの許可が必要で、ガルパンブーム自体もすでに利権絡みの構造になっています。大洗にて、ファンが自由に盛り上げてイベントをやることはNGになっているようですので、豊郷のように旧校舎群を借り切って同人誌即売会をやるとか、コスプレや痛車を自由に楽しむとか、ライブコンサートイベントで盛り上がる、という流れとは対照的になっているように見えます。ガルパン大洗と、けいおん豊郷の決定的な違いの一面がそこに示されているのは間違いないでしょう。

「玉屋」で軽くうどんを頂いて休憩した後、豊郷駅へと向かいました。途中で見た秋山澪の飛び出し看板も新しくなっていました。ミカさんかスマホで撮りつつ、感心したように言いました。
「いまもメンテナンスが続けられているのは素晴らしいですね。公式が公言しなかったことのメリットがこれにも表れていますね。ファンや有志の皆さんがいくらでも盛り上げていけますもんね」
確かにこうした飛び出しキャラ看板も、豊郷町当局および有志やファンの創意工夫によるものであります。公式の関与が一切ありませんから、幾らでも自在に展開出来るわけです。ガルパン大洗のキャラパネルが公式の許可品であることによって様々な制約を課せられているのとは対照的です。

豊郷駅前の「ルーチェ・カルマ」が営業していましたので、立ち寄ってみました。というより、あずにゃんファンのミカさんが、玄関口のあずにゃんカーテンにつられていったというのが正しいです。

店内は、御覧のようにけいおん一色でした。多くはファンからの寄贈品だそうです。ミカさん曰く「大洗のお店みたいなごった煮状態じゃなく、ちゃんとインテリアとしての見栄えも考えて飾ってありますね」と。

おー、ゆいあずだー、と楽しそうなミカさんでした。

本来はアロマセラピーのお店だと聞きましたが、店内はどこもけいおんポスターやタペストリーやグッズばかりが目立ちます。おそらくお店の方もファンなのかもしれません。

誕生日イベントに合わせて、琴吹紬グッズセットなるものも販売していました。値段が高めに設定されていたのに驚かされました。大部分の品が中古ショップにて安価で入手可能であるため、同じものをこしらえても半額以下で済みます。

外側のウインドーもこういう状態です。過去のイベントの案内ポスター等が貼られています。一見して「けいおん」ショップに見えてしまいます。が、実際に関連グッズも販売しているそうなので、豊郷町においては間違いなく「けいおん」ショップであるのでしょう。

列車の時刻が近づいてきたので豊郷駅に行き、すぐにやってきた米原行きの列車に乗りました。彦根駅でJR線の新快速に乗り換えて帰途につきました。京都駅で別れるまでの間、ミカさんがずっと語りつづけていた、ガルパン戦車プラモデルに関する話題に関しては、ここでは省かせていただきます。
以上で、「けいおん!の聖地をゆく12」のレポートを終わります。