一階の作業と並行して、二階の展示追加作業も進めました。この日の作業は、交流サークル仲間のモケジョさん達からの寄託提供品を中心に幾つかのスケールフィギュアを二階コーナーに組み入れるのが主でした。当然、名札もそれらに付けました。
それに伴って、棚全体の展示イメージのバランスをチェックしました。フィギュア展示数が多くなってくると、棚内の展示グッズ類とあわせての「密度」が濃くなってくるので、棚の各段の雰囲気にも差が生じてきます。それらをいかにおさえるか、という問題が派生します。
一般的に、博物館や美術館では、一定区画のスペースまたは空間における展示品の最低陳列量、および最大陳列量が規定や規則などで定められています。見学者が見やすく、理解しやすく、そして楽しんで展示品を心行くまで鑑賞出来るように、という観点でさまざまな配慮が施されます。そして多くの場合、展示構成は最低陳列量をメインに設定される傾向があります。
その理由としては、多くの展示品を並べられる余裕が無い、そもそも展示品を多く調達する余裕がない、見学者が多数にわたる見込みなので、展示品が多いと混雑化を招きかねない、といった諸事情が挙げられます。
それで、一定の空間内に展示品を一つか二つほど配置し、次の展示品との距離をとります。それによって見学者は立ち止まるタイミングを最低限にして、空間から空間へと常に移動しつつ、展示品を見てゆく形になります。人数が多くても混雑が起きにくいです。
しかし、酬徳記念館けいおんコーナーの展示状況は、いま述べた諸々の傾向とほぼ真逆になっています。
酬徳記念館けいおんコーナーの展示状況の傾向を列挙すれば、多くの展示品を並べられる余裕がある、そもそも展示品が過去の寄贈等によって膨大に蓄積されている、見学者が平均的に少ない、等です。そして、特定のアニメの関連品であるという特殊性が加わっているので、基本的にはそのアニメを知っていないと展示が理解出来ない、という点が課題に繋がってもいます。
展示量に関して言えば、種類も数も非常に多いため、展示構成は最低陳列量ではなく最大陳列量をメインに設定せざるを得なくなっています。
例えば、上図のように、フィギュアだけでなく、特典ポストカード、原作者イラストカード、映画鑑賞特典フィルム、劇場販売グッズ類など、幾つかのカテゴリーの品が同一棚内に詰められます。一定の空間内に展示品を一つか二つほど配置、どころではなく、十点、二十点といった感じで数が増加する傾向にあります。
そうなると、見学者によっては、立ち止まって全ての展示品をつぶさに見るケースも出てくるので、立ち止まる時間も長くなります。人数が多いと混雑の元になりますが、幸いにして酬徳記念館の見学者は平均的に少ないので、ある意味助かっていると言えます。
ちなみに上画像のフィギュアは、このたび一階からの移動品を加えて全部が揃ったパンブレストのメイド服バージョン6体です。
上図は、5体全部が揃っていたバンプレストの5thあにばーさりーシリーズですが、秋山澪にこの種のフィギュア製品によくある白化現象が生じていたため、物置に仕舞われていたダブリ品と交換しました。
二階展示室は、夕方になると窓から西日が強く差し込むので、展示品の大多数が日焼け、褐色化の危険に常にさらされています。それで、前回までの作業にて、色が落ちやすい製品、自作イラスト寄贈品などの彩色系グッズは全て一階に移動しています。
バンプレストの5thあにばーさりーシリーズ5体の右には、セガのプレミアムフィギュア2種と1.51バージョン2種の片方が並びます。棚内のテーマがまだ決まっていないので、セガの3体も仮置きですが、後日にKさんが1.51バージョン2種のもう片方を調達することになったので、他の棚へ移す予定です。
このように、各棚内のスペースには、常に最大陳列量に限りなく近づいている形の展示品があり、しかも今後の作業で数がさらに増える事が予想されます。
この状態で、見学者が見やすく、理解しやすく、そして楽しんで展示品を心行くまで鑑賞出来るように、と配慮するのは至難の業ですが、そこを何とかして調整して、全ての展示品が見える、分かる、という最低のボーダーラインは維持しなければなりません。
そのための展示全体の再構成作業であるわけですが、毎度の作業日に展示品をドンドン追加しているため、再構成作業も常に試行錯誤の連続を強いられています。
上図は、5体が揃ったバンプレストの一番くじプレミアム「不思議の国deティータイム」シリーズです。もとから在った寄贈品3体に、寄託提供品2体を加えて完備した形です。しかし寄託期間が満期に達すれば、2体は所有者の元へ戻ることになりますので、この展示に再び穴があきます。寄託期間を延長してもらうか、もしくは別の寄託提供を募るか、のどちらかの取り組みが必須となります。
現時点で、館内の展示品全体に占める寄託提供品の割合は2割に近づいており、今後はさらに増えますので、3割を超える見込みです。その寄託提供品の大部分が寄託期間を一年としているため、来年の10月から11月にかけて、展示コーナーのフィギュアの約3割が順次撤去返却の運びとなります。
つまり、全部が揃った最上の展示構成を鑑賞見学できる期間は、約一年間であり、この点をしっかりとわきまえないと、現在の酬徳記念館けいおんコーナーの「価値」も再認識されにくいと思います。
バンプレストの一番くじプレミアム「不思議の国deティータイム」シリーズ5体の右の空きスペースには、メガハウスのホビージャパン限定企画品中野梓が仮置きしてありますが、これは単体フィギュアですので、そのままでも構いません。
ですが、展示全体のバランスを考えるならば、この単体品も何らかのテーマに組み入れて相応しい位置を与えるべきです。今後の課題の一つです。
棚内のテーマ展示、というひとつの目的がほぼ達せられた一例が、上図のバンプレストの一番くじプレミアムの5thあにばーさりーシリーズ5体の並ぶ棚です。フィギュアは、もとから在った寄贈品4体に、寄託提供品1体を加えて完備しました。さらに物置の非展示品から、フィギュア群の公式原画イラストを見つけましたので、背景に組み入れました。
この原画イラストが一番くじのA賞として出され、これを立体化したフィギュア5体が一番くじプレミアムの景品になった、という流れですので、その一連の「過程」をこうして展示することで、ここのテーマは完結します。
この「完結」という点が、博物館や美術館の展示においては常に目指されている点です。展示品とは単なるモノではなく、ひとつの「物語」であり、一定の「世界観」を示すモニュメントでもあります。その秘めるストーリーを、最初から最後まで見学者に示すにはどうしたらよいか、という問題は、常に多くの展示担当者を悩ませますが、要は関連展示品が全て揃えば良いのです。
そして上図においては、5thあにばーさりーシリーズの一つのテーマが、原画からフィギュアへ、というストーリーの提示によって完結性を獲得しています。原画があって、立体化したフィギュアがある、という、誰が見ても分かり易い展示です。
本来、展示とは、こういうふうにシンプルかつ分かり易い内容であるべきです。「密度」の点で言えば、限りなく最低限に近づけるべきです。
ですが、酬徳記念館けいおんコーナーにおいては、全体的に数が多すぎて最大陳列量の限界線も突破しかねない蓄積が横たわり、物置にも非展示品が溢れているという状態です。一定の計画にもとづく基準にしたがって取捨選択し、抽出と淘汰を重ねて展示品を整理して集約し、展示全体の「密度」を下げて調整する、といった段取りが必須となります。
その一連の段取りが、展示再構成作業の要であるわけです。
改めて振り返りますと、上図の範囲においては、ある程度の整理と集約がなされ、展示全体の「密度」を下げることに成功しているほうです。従来は雑多なグッズ類も無秩序に置かれていたのですが、大部分を移すか下げるかして、見学者の目線に合わせたフィギュアメインの展示に替えました。背景のグッズ類はまだ手つかずのところが多いですが、フィギュア群のテーマに合わせて統一的に同系グッズをまとめられれば良いかな、と思います。
なので、上図のような各メーカーのフィギュアの混在状況は、今後の展示品の増加にあわせて改めてゆくことになります。
例えば、右のパンブレストのPV衣装シリーズは全2種4体のうちの2体しかありませんが、Kさんが後日に残る2体も寄託提供してくれる予定ですので、背景の原画イラストなどを調達する必要があります。
その左隣のアルターの中野梓は私が寄託提供したものですが、単体品ではありません。5体セットの残る4体が後日ナガシマさんより寄託提供され、11月11日の唯梓誕には出揃う手筈になっています。アルターの品は他に平沢唯と秋山澪学園祭バージョンがそれぞれ私とナガシマさんの寄託提供によって展示されていますので、今後はアルターのフィギュア群としてグルーピング展示する形にまとまりそうです。
上図左端はアルファマックスの中野梓水着バージョンで、私が寄託提供したものですが、これも単体品ではありません。4体セットですので、あと3体が欠けていますか、現時点で寄託提供の申し出は得られていません。
その右隣のムービックの私服姿中野梓も私が寄託提供したものですが、これは単体品で、別バージョンとして日焼けタイプがあります。中野梓のフィギュア単体品が幾つかありますので、中野梓コーナーみたいな形で各種を集めて、メーカー毎の造形表現の相違や特徴をアピールし、けいおんフィギュアの歴史の一端を読み取ってもらうのはどうかな、と考えております。
上図のセガのハイグレードサマービーチフィギュアも、全9体のうち5体のみが寄贈品として長らく展示されていました。残る4体を、寄託提供の呼びかけに快く応じて下さったフォロワーの立花姫子推しさんが揃えて、10月28日の豊郷ハロウィン見物に際して持参してくれることになりました。
それで、これらの追加は10月31日の作業日に行うことにしました。
右端はウェーブのビーチクイーンシリーズの鈴木純です。このシリーズは8体が出ていますが、そのうちの中野梓2種2体が寄託提供により追加される予定です。残る5体は、現時点で寄託提供の申し出が得られていません。
これらのフィギュア水着バージョンは、メーカー3社より計20体が出ています。全部が揃うかどうかは寄託提供の動向次第ですが、基本的には夏の季節展示として夏の一定期間にのみ展示する、というのが原案でした。
しかし、コーナー全体の総合テーマが、けいおんの関連品を出来るだけ展示してそのアニメ関連品の展開と歴史を可視化する、という内容に再定義されたため、通年での展示に切り替えました。
現時点ではただ空きスペースに仮に並べているだけで、展示位置もコーナー背景デザインもまだ決まっていませんので、今後の課題の一つになっています。
今年9月からの整理清掃修復作業の発端となった、バンプレストのグレイスタイルシリーズ6体です。過去に破壊され、盗難にあうなどして全てが行方不明となりましたが、各所の整理作業で4体が大破状態で発見され、そのうちの2体は修復不可能であったので廃棄処分しました。そしてあとの4体の2体ずつをナガシマさんと私が分担して寄託提供し、旧に復しました。展示位置も一階から二階に移しました。
いま、復旧したこのセットを見ていると、色々な感慨が沸きあがってまいります。私自身はいまはカルバンファンとして活動し、大洗に何度も行って戦車プラモデルを次々に作っている、という日々ですが、ガルパンに出会う前はけいおんファンの一人でした。
テレビ放送はリアルで視聴し、舞台のひとつである京都造形芸術大学に通っていてけいおん聖地の多くの範囲をよく知っていたために親近感を抱いていました。ミニフィギュアを中心とするグッズもローソンのキャンペーン等で少しずつ集め、イベントは埼玉アリーナと大阪UFJと京都高島屋のそれに行きました。
もちろん映画も観に行き、それに感動してロンドンへ行きたくなりました。模型サークルの海外旅行でそのロンドンへ行けたのは良かったが、意に反してボービントン戦車博物館への見学がメインとなり、現存唯一の可動ティーガーⅠの展示走行を目の当たりにし、同じく可動パンターG型に体験乗車して本物のドイツ戦車の凄さを体験させられました。
今思うと、どうもあの体験が、後にアニメ放送が始まったガルパンにハマる伏線であったような気がします。
しかし、そのような日々のなかにも、けいおんファンとしての意識は、私のどこかにかすかに残っていたのだろう、と思います。もともと模型やフィギュアも大好きなので、酬徳記念館けいおんのフィギュア展示品が無残な状態になっているのを黙って見過ごすことが出来なかったからです。
台座だけになってしまったグレイスタイルシリーズ6体の哀れな末路を茫然と見下ろしつつ、こんな馬鹿な事があってたまるか、たとえ子供の無邪気なイタズラであったとしても、こういう状態になり得るという流れに任せて放置されているというのは駄目だ、間違っている、と何度も強く感じたのでした。
それでナガシマさんとこの件について相談し、9月16日の作業へと動き出した次第ですが、その過程において、かつて抱いていたささやかな夢をも思い出しました。当時は、絶対に叶わないと諦めていた夢でした。
それは、けいおんの全てのフィギュア製品を、一度でもいいからこの目で見てみたい、という、けいおんファンならば当然過ぎるものでした。ですが、全部を買って揃えるのは絶対に不可能です。いま中古品を安く買い集めても、全部を揃えるのは至難の業です。
ところが、酬徳記念館けいおんコーナーには、従来より大半のフィギュアが寄贈展示されていました。今回の一連の作業で、はからずも不足分の補完を試みる流れとなり、フィギュア展示の資料性を高める、各メーカー品の網羅によるフィギュア製品の変遷と歴史の可視化、という二つの大きなテーマを作業目標に据えた形になりましたが、その際に、はっと気づいたのでした。
この作業を進めていくと、けいおんの大部分のフィギュア製品を、この目で見ることになるわけです。それに思い至った瞬間、感動してしまいました。同時に、けいおんファンだった頃の夢に、ガルパンファンとして向かい合うことになるとはな、と苦笑してしまいました。
ですが、かつての夢は、いま現実のものとなりつつあるようです。上図のバンプレストの一番くじプレミアム「映画けいおん卒業旅行」シリーズも、欠けていた琴吹紬が寄託提供によって補完され、5体全部が揃いました。全体的にシリーズが揃ってきていますので、かつて抱いた、けいおんの全てのフィギュア製品を、一度でもいいからこの目で見てみたい、という夢が、思わぬ形で偶然にもかないつつあります。
夢よいつかは、という言葉がありますが、いまの私の個人的心境はまさしくそれでした。 (続く)